もうだいぶ前のことになるけれど、日本で最初のオルゴールの博物館「オルゴールの小さな博物館」に行ったことがある。この博物館では、たくさんのオルゴールを実際に音を鳴らして聞くことができる。実は、この博物館は2013年の5月に閉館してしまった。私が行ったのも、閉館ギリギリの時期だったように思う。
たぶん、誰もがオルゴールの音色を一度は聴いたことがあると思う。小さなオルゴールであれば、旅先の土産物屋さんでも見かけることがあるだろう。だが、この博物館が所蔵するオルゴールたちはだいぶ雰囲気が異なっていた。たとえば、右の写真にあるオルゴールは空気の力を利用して笛のような音を発する。下部に据付けられた人形たちも音楽と同時にそれぞれに動き、その細やかな動きを見ていると時間が経つのを忘れてしまうようであった。職人の技術が細部の細部にまで及んでおり、思いもよらない音や動きで楽しませてくれた。
博物館そのものは閉館してしまったのであるが、たくさん所蔵されていたオルゴール円盤の一部を YouTube で聞くことができる。
右の動画で聞くことができるのは、ロッシーニのウィリアム・テル序曲である。きらびやかなオルゴールの音と、微妙に乗り切らないテンポ感が不思議な安心感を覚えさせてくれる。ほかにも、HP上に多くの楽曲へのリンクが貼られているので、さらに聴きたい人はそちらを見てもらいたい。
最近では、データ化された音源を iPod に入れて聴くことができる。そうでなくとも、CD、レコードということになるかもしれない。何にせよ、それらの音は全てアンプやスピーカーを通して聴かれることとなる。オルゴールもCDも「音楽を聴くため」という用途は同じなのだが、ただ一点、オルゴールがその内部である種の「生演奏」を行っているという点で、それらは異なっている。
右の写真を見ればわかると思うが、オルゴールの内部機構には太鼓やグロッケンのような様々な楽器が備え付けられている。大きなものになればなるほど、あらゆる楽器を内部に抱え込んでおり、豊かな音色で音楽を演奏してくれる。普段我々が音楽を聴くために使用しているスピーカーは、それだけで全ての音を再現することができるという点で画期的なものであることは間違いない。しかし、そのような技術がなかった時代、ありうる方法は、生演奏をそのまま部屋に持ってきてしまうことだけだったのである。
演奏された音楽をまるまる保存し再生することができる現代のメディアと違い、オルゴールは音楽の構成のみを保存し、その音楽を文字通り「再現」する。オルゴールのディスクやロールに刻まれた音価は、その音の長さや音程を物理的な位置として置き直されたものである。それだけでも非常に興味深い楽器であると私は思うのだ。