わたくしごと註解

17-18世紀の西洋哲学および生命思想史を研究しています。執筆者については「このブログについて」をご覧ください。

本に線をどのように引くのか

本に線を引くという行為に賛否両論あることは、いちおう知っている。その行為が効果的であるかとか、人の道に反するとか、そういう議論はとりあえず置いておきたい。ここで書きたいのは、「線を引くことにしよう」と決めたあとの話である。しかも、「どこに引くか」という読書技術の問題は扱わない。「どうやって線を引くか」について書きたい。

線を引くというのは難しい。大きな本ならまだしも、文庫本に線を引くというのは綴じられている付近の湾曲に近づけば近づくほど難しくなっていく。フリーハンドで線を引こうとすれば、たいていの場合ふにゃふにゃの線になってしまう。それでは、マーカーを使えば多少はまっすぐな線が引けるかといえば、そうでもない。「私は丁寧にやるからできる」という人もいるかもしれないが、私はそうではない。あくまで本を読むことに集中したいのであって、線を引くことにではない。

まっすぐに線を引くという行為は、普段から絵を描いている人ならまだしも、普通の人にはなかなかできることではない。私も、小学生の頃通っていた塾で「みみず」という学習教材を使ってひたすら線を引く練習をしたことがあった。いろいろな図形をなぞることで手を鉛筆に慣らしていくのだ。だが、いまだに上手く線を引くことができない。

そういう人間のために先人たちが発明した道具がある——定規。定規を使うと線をまっすぐに引くことができる。これを使えばまっすぐな線が簡単に引けるし、本の上であっても、それは例外ではないはずだ。

とはいえ、文庫本は強敵だ。柔らかすぎる定規ではいけない。長すぎる定規も扱いが難しい。三角定規とかは尖っていて痛い。そういった数々の困難を乗り越えて、とても良い定規を見つけたので報告しよう。

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今回手に入れたのは、MIDORIという文房具メーカーから出ている定規だ。見づらい写真で申し訳ないのだが、折りたためる定規を手に入れた。折りたためる定規はとても便利だということを今まで知らなかった。電車などの狭い空間では、折りたたんで使えば良いし、でかい本にはカチカチとひらいて使えば良い。

定規を開くときに、カチカチと(音はしないのだが)心地よい引っ掛かりがある。最初のカチから次のカチまでの滑らかな動きと、無理にではない優しい静止の連続。私は今までの人生の中でこんなに気持ちよくカチカチするものを知らなかった。

この定規を使って、そして赤鉛筆を使って線を引くのが私の最近の読書方法である。どの箇所に線を引くかは気分次第だが、どうせ引くならよりよい線を目指したい。

じつは、二度と再び読むことのない本であればフリーハンドで線を引いてもいいと思っている。線を引くという行為自体に、要点を自分の中で整理するという意味があるから、二度と読まないとしても線を引くのは無駄ではない。そして、二度と読まないならその線は雑でもかまわない。

わざわざ直線を目指そうとするのは、その線が再読を妨害するのを防ぐためだ。まっすぐな線というのは、いわば特徴の無い中立無記的な線である。すべてのまっすぐな線は、同じまっすぐな線だ。ふにゃふにゃした線は、みんな違う。そういうものが隣にあると気になってしまうだろう。何も主張しないという意味で、まっすぐな線は線の中でも最高に無記的であるということが重要である。

 

追記(2022/7/29)

やがて私はこの定規を使わなくなった。この定規が行方不明になってしまって、代わりに買ったモチモノのピタットルーラーという商品が、あまりにもシックリきてしまったからである。よりよいものに出逢ったら迷わず乗り換えていく、自分の薄情さに呆れなくもないが、もはや後戻りはできない。

ピタットルーラーは中心にゴム製の滑り止めが付いており、全体が立体的に奥行きのある三角形の形をしている。裏返して使うと、この三角形がちょうど綴じしろの近くの湾曲にフィットする。非常に取り回しが良い。

今私は、この定規の3本目を購入しようとしている。書斎机用、持ち運び用、寝床用にそれぞれ欲しい。こういうものはいくらあっても良い。トイレ用、食卓用、お風呂用…。

やがてまた、よりよい定規に出逢うことがあるかもしれないが、そのときまではお世話になるだろう。

 

ミドリ CL マルチ定規<16cm> 透明 42240006

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トンボ鉛筆 色鉛筆 色辞典 単色 CI-RV1 チェリー

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